コワーキングスペース提供事業者の動向
日本でも全国的に増加しつつあるコワーキングスペースだが、現在、どのような事業展開が進んでいるのか。コワーキングスペースの黎明期には、クリエイターやネット関連の個人事業者らが特定の場所で施設を運営する事例が多くみられた。近年では、大手不動産会社や外資系企業などの参入が続き、施設の急増と全国展開につながっている。
全国複数の都市で展開するコワーキングスペース提供事業者(主な事例)を示したものが【図表4‐1】である。これらの施設事例をみると、スタートアップ企業等への支援に重点を置いたもの(スタートアップ支援型)、地域ごとにパートナーを組んで施設に特色を持たせたもの(地域カスタマイズ型)、比較的上位のベンチャー企業等をターゲットとしたもの(エグゼクティブサロン型)、一般的な会社へのビジネス支援を狙ったもの(マルチビジネス支援型)など、事業者ごとに独自のビジネスモデルを構築し展開している。
また、特定の地域(東京23区内あるいは地方都市)で展開するコワーキングスペース提供事業者(主な事例)を示したものが【図表4‐2】である。全国展開を図る提供事業者に比べると小規模ながらも、クリエイターやアーチスト支援にターゲットを絞ったもの(クリエイター・アーチストサロン型)や、地域のフリーランスや若者等のコミュニティ支援を意識したもの(地域コミュニティ支援型)など、それぞれ個性を活かしながら展開していることが分かる。
これらの事例をもとに、【図表4‐3】では、日本のコワーキングスペースの展開方向(試案)を一覧にまとめた。黎明期に、クリエイターたちのコミュニティサロンとして始まったコワーキングスペースが、一方では、入居(メンバーシップ)会員を中心とした「スタートアップ支援型」、「エグゼクティブサロン型」の施設へと、一方では、入居(メンバーシップ)会員とドロップインを合わせた「クリエイター・アーチストサロン型」、「マルチビジネス支援型」、「地域コミュニティ型」の施設へと展開し、さらには地域ごとに施設の性格を変えて展開する「地域カスタマイズ型」も生まれつつあることを図示している。
図表4‐1 全国に展開するコワーキングスペース提供事業者(主な事例)
図表4‐2 特定地域で展開するコワーキングスペース提供事業者(主な事例)
図表4‐3 日本のコワーキングスペース事業の展開方向(試案)
コワーキングスペースの現状と課題(まとめ)
ここまでに得られた知見とそれらを踏まえた課題を以下に記し、本報告のまとめとする。
① 東京都心部や大都市を中心として、コワーキングスペースは着実に増加している状況にある。その中でも、それぞれのビジネスモデル(スタートアップ支援型、エグゼクティブサロン型、地域カスタマイズ型、アーチストサロン型など)を有して、全国的な展開、あるいは特定地域での展開を図る事業者も見え始めている。ただし、今後は都心部などでは施設の増加に伴って激戦となっていくことが予想されるため、利用者確保のため、各事業者は確固としたビジネスモデルを有しながら展開していく必要があるだろう。
② 地方都市でも、コワーキングスペース設置の広がりを見せつつある。地域コミュニティ支援型のように、地域に根差して広く利用者に開放するタイプの施設は、今後も増えていく可能性はあるだろう。ただし、利用者をいかに開拓し増やしていくか、施設の採算性をいかに確保するかについては課題が残るだろう。
(※)コワーキングまたはコワーキングスペースのその他の定義として、佐谷・中谷・藤木は、コワーキングを「異なる職業や仕事を持った人が集まって仕事場を共有することであり、コミュニケーションを積極的に取ることで知恵と情報をシェアし、高め合っていこうという発想のワークスタイル」(佐谷・中谷・藤木(2012))、宇田は、コワーキングを「働く個人がある場に集い、コミュニケーションを通じて情報や知恵を共有し、状況に応じて協同しながら価値を創出していく働き方」、コワーキングスペースを「コワーキングを実践する個人が物理的に共有するワークスペース」と定義している(宇田2013、阿部・宇田2016)。
<参考資料>
・佐谷恭、中谷健一、藤木譲『つながりの仕事術:「コワーキング」を始めよう』洋泉社,2012.5
・日本テレワーク協会編『テレワークで働き方が変わる!テレワーク白書2016』インプレスR&D,2016.3
・中村雅章「コワーキングスペースのビジネス展開-現状と戦略ー」中京経営研究,22(1・2),2013.3
・宇田忠司「コワーキングの概念規定と理論的展望」経済学研究,63(1),2013.6
・金森裕樹「世界のコワーキング事例と動向:ロンドン、シンガポール、ニューヨーク、アムステルダムより」日本オフィス学会誌,7(2),2015.10
・阿部智和、宇田忠司「コワーキングスペースの運営の現状と課題」日本オフィス学会誌,8(1),2016.4