調査研究レポート(第1回) 「日本のコワーキングスペースの現状と課題」(3)

コワーキングスペースのサービスタイプ別分析

  続いて、コワーキングスペースで提供されるサービスをタイプ別に分けて分析を試みる。大都市と大都市以外ではコワーキングスペースのサービスタイプはどのような違いがみられるのか。

3-1 入居タイプとドロップイン

 コワーキングスペースには、基本的に「入居」(メンバーシップとも言う)と「ドロップイン」というサービスがある。「入居」とは、利用者が通常月単位で契約し利用料を支払い、スペースを日常的に利用するサービスである。「ドロップイン」とは、利用者が1日または時間単位で利用料を支払い、一時的にスペースを利用するサービスである(宇田2013、中村)。

 そこで、「入居」サービスのみ提供する施設を『入居タイプのみ』、「ドロップイン」サービスのみ提供する施設を『ドロップインのみ』、「入居」と「ドロップイン」の両方を提供する施設を『入居+ドロップイン』と名づけ、このサービスタイプ別により分析してみよう。

 地域別にみると、東京23区では『入居タイプのみ』が5割程度、とりわけ東京都心3区では6割近くを占め、大阪市、名古屋市、その他地域になるにつれ、その割合は低下する。その代わりに大阪市、名古屋市、その他地域では、『入居+ドロップイン』の割合が高まる。一方、『ドロップインのみ』は、都心3区では4.8%と低く、大阪市、名古屋市、その他の地域では10%前後である【図表3‐1】

 このことから、東京23区では、特定の利用者に限定した『入居タイプのみ』(クローズ系の施設)が半数以上の割合である一方、その他地域では、不特定多数の利用にも対応した『入居+ドロップイン』と『ドロップインのみ』(オープン系の施設)が8割近く立地し、大阪市、名古屋市はその中間に位置していることが分かる。

出典:コワーキング.com(2019年6月8日更新時点)に基づきデータ作成

3-2 法人登記サービスの有無

 さらに各施設に「法人登記サービス」があるか否かの分析を加えてみる。「法人登記サービス」とは、コワーキングスペースの住所を利用して法人登記できるサービスを差す。コワーキングスペースの起業家支援サービスには、この法人登記のほか、郵便受取、電話取次、弁護士や会計士などの専門家紹介、イベントやセミナー開催、ビジネスマッチングなどの様々なサービスがあるが、法人登記サービスの有無をみることで、その施設が単なるスペース貸しだけでなく、一定の起業化支援サービスも志向しているかの一つの判断指標となる。

 これを都市別・サービスタイプ別にみると、『入居タイプのみ』では、東京23区、大阪市では8~9割程度、その他地域では7割程度が法人登記サービスを備えている。『入居+ドロップイン』では、東京23区、大阪市、名古屋市では7~8割が法人登記サービスを備えているが、その他地域では6割程度にとどまっている【図表3‐2】

 大都市に立地する施設ほど「法人登記サービス有り」の割合が多いのは、大都市の利用者にこうした起業家支援サービスへの需要が高いことが考えられる。とくに、法人登記サービスは、大都市に法人住所を置くことがステータスシンボルになるため、なお需要が高く現れていると思われる。

出典:コワーキング.com(2019年6月8日更新時点)に基づきデータ作成

3-3 個室部屋の有無

 また、施設内に「個室部屋」があるか否かの分析を加えてみる。コワーキングスペースの「個室部屋」に関しては、①あらかじめ契約を結んでいる特定利用者向けの「個室部屋」(シェアオフィス)と、②共同利用が可能な集中用スペースとしての「個室部屋」(共用スペース)のどちらも考えられるが、ここでは、シェアオフィス的な利用傾向をおおまかに捉える判断指標とする。

 これを都市別・サービスタイプ別にみると、『入居タイプのみ』では、東京23区をはじめ、大阪市、名古屋市ではいずれも「個室部屋有り」の割合が上回る。一方、その他地域では「個室部屋無し」の割合が上回っている。『入居+ドロップイン』の施設では、東京都心3区と名古屋市を除いて「個室無し」の割合が圧倒的に上回っている【図表3‐3】

 大都市に立地する施設ほど「個室部屋有り」の割合が多いのは、シェアオフィス的な施設利用への需要が高いことが考えられる。とくに、東京都心3区では、全施設の半数を超える施設が「個室部屋」を備えている。

出典:コワーキング.com(2019年6月8日更新時点)に基づきデータ作成