調査研究レポート(第1回) 「日本のコワーキングスペースの現状と課題」

大都市政策研究機構では、調査研究の一環として、第21回日本テレワーク学会研究発表大会(2019年7月13日~14日)にて、「日本のコワーキングスペースの現状と課題」(市川宏雄理事長・三宅博史主任研究員)と題する研究報告を行いました。
本調査・研究レポートは、当報告に解説を加えたものです。
→ 「日本のコワーキングスペースの現状と課題」(PDF)

本報告のねらい

 近年、テレワークの普及に伴う働き方の多様化として、「コワーキングスペース」が注目を集めている。コワーキングスペースとは、オフィスや自宅以外の新たなワークスペースのことを指すが、日本初のコワーキングスペース「cahooz(カフーツ)」代表の伊藤富雄氏は、次のように定義している。

「個々に仕事を持ち働く人たちが、働く場所(空間)を同じくするだけではなく、コミュニケーションを図ることで、互いに情報と知恵を共有するという概念およびそのための施設」

 つまり、コワーキングスペースとは、それぞれ独立した仕事を抱えるワーカーが集まり仕事をする場所であるが、従来のSOHOやシェアオフィスとは異なり、コミュニケーションを通じて情報や知恵を共有することで新たな価値を創出しようとするスペースだという点に特徴がある(※)。

 これらコワーキングスペースは、2006年ごろにアメリカ・ニューヨークで始まり、その後、アメリカの大都市や、ロンドンなどのヨーロッパ諸都市で急速に普及が進んでいった。その影響は日本にも及び、大都市を中心に施設数が大幅に増加しつつある。

 そこで、日本のコワーキングスペースの現状と今後の展開方向について考察するため、次の4つの観点から分析を試みる。なお、分析手法としては、コワーキングスペースのポータルサイトである「コワーキング.com」(https://co-work-ing.com)に登録されている799施設(2019年6月8日更新時点)の情報をもとにデータベース化を図り、各種集計を行った。

① 日本のコワーキングスペースの施設数の推移(2015~2019年)
② コワーキングスペースの都市別の立地状況
③ コワーキングスペースのサービスタイプ別分析
④ コワーキングスペース提供事業者の新たな展開状況

コワーキングスペース施設数の推移

 日本初のコワーキングスペースは、2010年5月に神戸市でオープンした「cahooz(カフーツ)」であり、同年8月には東京初で全国2番目の「PAX Coworking(パックスコワーキング)」(東京都世田谷区)が開設した。その後、全国的に急拡大しているとみられるが、実際にどの程度、施設数は増えているのか。『テレワーク白書2016』(日本テレワーク協会編)には、同じ「コワーキング.com」による2015年7月時点の都道府県別施設数が掲載されている。この2015年7月時点のデータと、今回(2019年6月)のデータとを比較し検証してみよう。

 全国の施設数では、300施設(2015年)から799施設(2019年)へと、約2.66倍増加している。2010年の「cahooz(カフーツ)」誕生から5年間で300施設に増え、2015年からの4年間でさらに約400施設増えたことになる。単純平均で2010~2015年は年間60施設、2015年以降は年間100施設ずつ増加し、まさに拡大傾向にある。

 地方ブロック別にみると、2015年には関東が163施設(全国シェア54.3%)、近畿が61施設(同20.3%)で、この2ブロックで全国の約75%を占めていた。2019年には関東が414施設(同51.8%)、近畿が159施設(同19.9%)となり、施設数は増加しているが、全国シェアは低下している。その代わりに東北、中部、中国で施設数の伸びが目立ち、全国シェアも上昇している【図表1左側】。

 都道府県別にみると、施設増加数は東京都、大阪府、神奈川県が目立つが、伸びでは青森、山形、石川、岐阜県などが全国平均を上回る。2015年に施設が一つもなかった福島、新潟、富山、鳥取、島根、山口、宮崎県などでも、複数の施設の立地に至っている【図表1右側】。

 これらの推移をまとめると、2010~2015年頃にかけては東京都や大阪府を中心に関東、近畿で施設数は増加したが、近年では東北、中部、中国地方をはじめ、全国的な立地が進みつつあると言える。

図表1:コワーキングスペース施設数の推移(2015-2019年)

〇全国及び地方別

出典:コワーキング.com
(2015年7月27日時点、2019年6月8日更新時点)に基づきデータ作成
2015年データは『テレワーク白書』2016年, 123頁を参照
〇都道府県別