「大都市政策の系譜」第3回「コルビュジエの「輝ける都市」」(2)

コルビュジエが提唱した一連の都市計画案

2-1 「人口300万人の現代都市」

 コルビュジエは、1922年にパリで開催されたサロン・ドートンヌで、「人口300万人の現代都市」(Ville contemporaine de trois millions d’habitants)を出展した。

 この計画案の目的は、都市形態の問題に関する一般的な解決策を見いだすことにあった。近代建築運動の指導者の一人として、標準化され普遍的に応用できる「定型(タイプ)としての住宅」を作り出せると考えていた彼は、標準化された「定型(タイプ)としての都市」を作り上げようとしたのである。そこで示された理想都市の形態は、厳格な幾何学パターンのもとに、広大なオープンスペースに囲まれた壮大な超高層建築物群が立ち並び、その足元には高速自動車道や幹線道路、鉄道などの交通システムが貫くものであった。彼は、「我々の従うべき基本的原則は、① 都市の中心部の混雑を除去すること、② 都市の密度を高めること、③ 移動のための手段を増やすこと、④ 公園やオープンスペースを増やすことである」と説明している。

 都市の全体計画は、中心地区とこれを取り巻く緑地帯、その外側の工業地域、衛星都市(Garden suburb)で構成されている。中心地区には都市のエリート層100万人が住み、衛星都市には一般勤労者、工場労働者200万人が住む。

 シティ・センターには、十字型をした60階建て超高層オフィスビル24棟が林立し、業務機能や行政機能、劇場や公会堂等の公共施設、商業施設などの業務・商業地区を形成する。その業務・商業地区の左側には、市民文化センターが備わり、その先には広大なイギリス式公園が広がる。

 シティ・センターの中心には十字型に交差する2つの高速道路に加えて、都心と衛星都市を結ぶ郊外通勤者用の地下鉄、都市間鉄道、航空機の滑走路としての高架プラットフォームをつなぐ多層輸送複合施設を設ける。

図上:「人口300万人の現代都市」 全体配置図
図下:「同」 中心駅・空港・摩天楼オフィス街の眺望

出所:ノーマ・エヴァンソン著 酒井孝博訳『ル・コルビジュエの構想-都市デザインと機械の表徴-』

 シティ・センターを取り囲む居住スーパーブロックには、2つのタイプの共同住宅が配置される。都心を取り囲む高級住宅地区は、400×600mのブロックのなかに街路からセットバックし鍵型に連続する板状住棟(中二階式六層)が配された「屈曲型住区」(人口密度300人/ha)で構成され、地上部分を道路とオープンスペースに開放するために、建物はすべてピロティで持ち上げられている。その外周に配置された中流階級向けの共同住宅は、200×400mの街区の外周にアパート(中二階式五層)が配された「箱枠型住区」(人口密度305人/ha)で構成され、建物のファサードは道路に背を向け、街区内の公園側に開くようにしている。

 コルビュジエによれば、この「300万人の現代都市」構想に対する人々の反応は、「ある種の茫然自失を持って迎えられ、その驚きからある人々は怒り、ある人々は熱狂した」という。

図:「同」 居住スーパーブロック(左:屈曲型住区、右:箱枠型住区)
出所:ノーマ・エヴァンソン著 酒井孝博訳『ル・コルビジュエの構想-都市デザインと機械の表徴-』

2-2 「ヴォアザン計画」

 続いて彼は、1925年のパリ国際装飾芸術展で「ヴォアザン計画」(Plan Voisin)を発表した。自動車は都市を蘇生させうるとの確信のもと、スポンサーとなった航空機・自動車メーカー社長ガブリエル・ヴォアザンの名を冠したこの計画は、「300万人の現代都市」の原理をパリ中心部の再開発計画に適用させたものであった。

 その内容は、パリの中心部に、ヴァンセンヌ(Vincennes)からルヴァロワ=ペレ(Levallois-Perret)まで東西を貫く自動車高速道路を建設してシャンゼリゼ通りに集中する交通を代替し、パリ中心部の自動車交通をスムーズにする。パリ中心部600エーカーの敷地は、新しい商業・業務センターとして碁盤目状のブロックに整地し、それぞれのブロックには、高さ200mの十字形の超高層オフィスビル18棟を建設する。その足もとの空間には、階段状のテラスと3層の歩行者モールが置かれる。西方の住居地区には、広大な緑地の中に低層の住宅、行政機関の建物や文化施設が配置される。容積率を大幅にアップすることで、土地に対する建物の割合は現状の75%からわずか5%となり、残りの95%の空地は緑豊かな公園とする、というものであった。

写真:ヴォアザン計画(模型)
出所:Wikipedia(英語版)

2-3 「輝ける都市」

 1930年、コルビュジエは、モスクワ市当局からソビエト首都改造に関する質問状を受けたことを契機に、「300万人の現代都市」の原理を敷衍化した計画案を作成し、これを「輝ける都市」(La Ville radieuse)と名付けて同年の近代建築国際会議(CIAM)第3回会議(ブリュッセル)に出展した。のちにこの計画案は出版され、コルビジュエの構想が広く知られることとなった。

 新しい構想の特徴は、「300万人の現代都市」で欠けていた都市の拡張への対応を可能とするため、中心軸に沿ってその両側に都市が拡大できるように改善を加えたことにある。都市の北端に摩天楼の業務センターと、鉄道ターミナルや飛行場が置かれ、その南に商業及び公共施設の中心軸と両側の居住スーパーブロック、最も南側に工場、倉庫、重工業施設が立ち並ぶ工業地帯が配置される。住宅地域と工業地帯とは細長いパークランド公園(芝生状公園)によって分離されている。彼は、この都市を「あらゆる人に太陽、空間、緑を提供する生命体」であるとし、業務センターを頭部、商業施設を内蔵、住居地区を胴体、工業地帯を足に例えている。

 居住スーパーブロックは400×400mのグリッドに限定し、共同住宅は、高架の高速自動車道を凌駕する「屈曲型住区」が連続するデザインとしている。人口密度は1人当たり14㎡の床面積をベースとして、1,000人/haに高めている。都市の密度を高めて、移動時間を短縮させるために、衛星都市(田園都市)は姿を消している。

 道路は二層構造とし、上層は高速自動車道、下層は重量トラック用、地下レベルに歩行者専用通路を設け、地上レベルには街路と並行して路面電車の軌道を敷設する交通システムが描かれている。

 なお、コルビュジエは、「輝ける都市」の建築配置パターンの効能について、“大きな空地は戦時下の空襲の命中率を低下させる”、“ピロティは有毒ガスを通風によって霧散させ、居住者が上階に避難することができる”、といった理論武装も加えており、いかにも第一次世界大戦後の世相を反映したものとして興味深い。

図上:「輝ける都市」 全体配置図
図下:「同」 居住スーパーブロック

出所:ノーマ・エヴァンソン著 酒井孝博訳『ル・コルビジュエの構想-都市デザインと機械の表徴-』