ハワードの田園都市構想が各国に与えた影響
ハワードの田園都市構想を受けて、1899年に「田園都市協会」が設立、1903年には「第一田園都市株式会社」が創設され、ロンドン北方約54㎞に最初の田園都市レッチワース(Letchworth)が実現する。レッチワースの成功の後、1920年にはロンドン北方約36㎞に第2の田園都市ウェリン・ガーデン・シティ(Welwyn Garden City)が建設された。
ハワードの田園都市の理念は世界各国に知られることとなり、田園都市に類する都市が各地に建設された。ドイツ・ベルリン郊外のファルケンベルク(1912)、フランス・パリ郊外のシテ・ジャルダンと呼ばれるニュータウン(1920~30年代)、アメリカのフォレストヒルズ・ガーデンズ(1911)やサニーサイド・ガーデンズ(1924)、ラドバーン(1928)、グリーンベルト・タウンズ(1930~40年代)などがそれである。しかし、これらの多くは自立型都市を目指した田園都市というよりも、大都市に通勤するための郊外住宅地、すなわち田園郊外(garden suburbs)の様相が強いものであった。
日本でも、内務省をはじめ早くから田園都市の思想が伝えられ、渋沢栄一による「田園都市株式会社」設立と田園調布の開発、多摩田園都市プロジェクト、大都市圏近郊のニュータウン建設につながっている。
ハワードの田園都市構想は120年ほど前のものだが、自然との共生、協同型社会、循環型システムなど、その提案は古びていない。近年のアメリカのニューアーバニズム運動においても、ハワードが提唱した田園都市の理念を現代社会に置き換えて捉えなおそうとする動きがあり、いまだ大きな影響を与え続けている。
(一般社団法人大都市政策研究機構 主任研究員 三宅 博史)
<参考文献>
東秀紀・風見正三・橘裕子・村上暁信『「明日の田園都市」への誘い-ハワードの構想に発したその歴史と未来-』彰国社、2001年
新谷洋二・越澤明監修『都市をつくった巨匠たち―シティプランナーの横顔-』ぎょうせい、2005年
日端康雄『都市計画の世界史』講談社現代新書、2008年
佐藤健正『近代ニュータウンの系譜-理想都市像の変遷』市浦ハウジング&プランニング叢書、2015年
エベネザー・ハワード著・山形浩生訳『〔新訳〕明日の田園都市』鹿島出版会、2016年