パリ大改造が各国に与えた影響
一連のパリの改造は、「オスマニザシオン(オスマン化)」(Haussmannisation)とも称され、都市の近代化は交通・衛生問題の解決、都市の美化をもたらしたが、パリ市民の生活は一変した。それまでパリ中心部には多様な階層が混在住居する伝統があったが、富裕層が中心部に住み、貧困層は周辺部に追いやられる「住み分け」の現象を進行させた。
その一方で、壮麗なる首都パリの出現は、都市改造の手本とされ、ウィーン、バルセロナ、ブリュッセル、ベルリンなどの西欧諸都市の都市改造に多大な影響を与えた。
明治期の近代化を急く日本においても、例えば、岩倉具視使節団(1871~1873年)の外遊記録で、パリの都市としての壮麗さ、道路・下水道の完備について感嘆をこめて述べられ、また、明治中期に臨時建設局総裁の井上馨のもとでベックマンが構想した「日比谷官庁集中計画」(1886年)は、明らかにパリ大改造を意識したものであった。
日本最初の都市計画法制と言うべき「東京市区改正条例」(1888年)を策定する審査会の議論でもパリ大改造はたびたび引き合いに出され、その付帯規則「東京市区改正土地建物処分規則」の超過収用規定は、パリのデクレを参考にしたものである。
現代社会において、オスマンのパリ大改造のような強権的な都市改造をそのまま手本とすることは考えづらい。しかし都市基盤が未だ十分とは言えない日本の大都市にとって、このパリ大改造の事例は、街路、公園、地下共同溝といった都市インフラ整備が産業・経済の効率化のみならず、公衆衛生、治安、災害対策、アメニティ創出などあらゆる面で重要だということを改めて気づかせる。
(一般社団法人大都市政策研究機構 主任研究員 三宅 博史)
<参考文献>
堀正弘「パリ改造事業と日本への影響」『国土交通政策研究所報』第50号・2013年秋季
ハワード・サールマン著 小沢明訳『パリ大改造-オースマンの業績-』井上書院、1983年
レオナルド・ベネーヴォロ著 佐野敬彦・林寛治訳『図説 都市の世界史4』相模書房、1983年
宇田英男『誰がパリをつくったか』朝日選書、1994年
石田頼房『日本近現代都市計画の展開 1868-2003』自治体研究社、2004年
新谷洋二・越澤明監修『都市をつくった巨匠たち―シティプランナーの横顔-』ぎょうせい、2005年
日端康雄『都市計画の世界史』講談社現代新書、2008年
大澤昭彦『高層建築物の世界史』講談社現代新書、2015年