調査研究レポート(第5回)「日本のコワーキングスペースの拡大」(2021年12月版)<後編>

一般社団法人大都市政策研究機構
主任研究員  三宅 博史


★「日本のコワーキングスペースの拡大(2021年12月版)<前編>」(2022年1月20日公表)に引き続き、本稿<後編>では、コワーキングスペースのサービスタイプ別分析、主なコワーキングスペース提供事業者の動向、そして2020年春以降の新型コロナウイルス感染拡大がコワーキングスペースにどのような影響を与えたか、について分析を行った。

→ 「日本のコワーキングスペースの拡大」(2021年12月版)<後編>(PDF)

コワーキングスペースのサービスタイプ別分析

 コワーキングスペースで提供されているサービスタイプ別に、2019年6月から2021年12月にかけてどのような変化が生じたかも含め、分析を行う。

3-1 メンバーシップとドロップイン

 コワーキングスペースの基本的なサービス形態である、「メンバーシップ」(月単位の契約で日常的にスペースを利用するサービス)と「ドロップイン」(1日または時間単位で一時的にスペースを利用するサービス)をもとに、全国の施設を『メンバーシップのみ』、『メンバーシップ+ドロップイン』、『ドロップインのみ』のサービスタイプに分けて分析する。 (注:「日本のコワーキングスペースの現状と課題」(2019年12月23日公表)では、「メンバーシップ」を「入居タイプ」と表記していたが、コワーキングスペース内の個室(サービスオフィス等)への入居契約と誤解されるおそれがあることから、今回のレポートから「メンバーシップ」に表記統一する。)

 地域別にみると、東京都心3区では『メンバーシップのみ』が6割近く、東京23区でも5割強を占め、2019年6月時点と比べ、その差が縮んでいる。また、『ドロップインのみ』は、東京都心3区で7.7%、東京23区でも9.1%であり、2019年6月時点からじわりとその割合を増加させている。大阪市、名古屋市では『メンバーシップのみ』はいずれも4割程度と同様の値となっているが、大阪市では『ドロップイン』が24.2%と、その割合を大きく増加させている。

 上記以外の地域では、『メンバーシップのみ』が2割強、『メンバーシップ+ドロップイン』が5割強、『ドロップインのみ』が2割程度であり、2019年6月時点と比べ、『メンバーシップのみ』と『ドロップインのみ』がそれぞれ割合を増加させている【図表3-1】

 これらを総合すると、2019年から2021年にかけて、『メンバーシップのみ』の割合が東京23区全体、大阪市、名古屋市、その他の地域で増加し、かたや『ドロップインのみ』の割合も大阪市を筆頭にすべての地域で増加したという、二つの側面からの動きがみられたことが分かる。


出典:コワーキング.com(それぞれ2019年6月8日、2021年12月28日閲覧時点)に基づきデータ作成


3-2 法人登記サービスの有無

 続いて、サービスタイプ別に、「法人登記サービス」の有無についての分析を加える。法人登記サービスの有無をみることで、その施設が単なるスペース貸しでなく、スタートアップ企業やベンチャー企業向けなどの一定の起業化支援サービスを志向しているかの一定の判断指標ともなろう。

 地域別にみると、『メンバーシップのみ』の施設では東京23区、大阪市、名古屋市とも大半が法人登記サービスを備えており、2019年6月時点と比べてその割合はさらに高まっている。また、『メンバーシップ+ドロップイン』の施設でも、東京23区、大阪市、名古屋市では、その他の地域に比べて法人登記サービスを備える割合が高くなっている。大都市に立地する施設では、利用者にとってその場所に法人住所を置くことがステータスシンボルにもなり、需要も高いことから、法人登記サービスを備えることがますます重要になっていると思われる。

 なお、2021年12月の集計では、数は極めて少ないものの、『ドロップインのみ』の施設でも法人登記サービスを備える例がみられるが、ドロップインの料金設定しかないが運営者側の好意で法人登記サービスも行っているといった特殊な例である。


出典:コワーキング.com(それぞれ2019年6月8日、2021年12月28日閲覧時点)に基づきデータ作成


3-3 個室部屋の有無

 また、サービスタイプ別に、施設内の「個室部屋」の有無についての分析を加える。コワーキングスペースの「個室部屋」に関しては、①あらかじめ契約を結んでいる特定利用者向けの「個室部屋」(サービスオフィス、レンタルオフィス)、②ドロップインなどの一時利用の際に一定の割り増し料金等を払って(あるいは予約先着順で)利用可能となる「個室部屋」、③共同利用が可能な集中用スペース(電話やリモート会議利用も含む)としての「個室部屋」(共用スペース)、などいくつかの部屋パターンが考えられる。

 地域別にみると、『メンバーシップのみ』の施設では東京23区、大阪市、名古屋市、その他の地域とも多くが「個室部屋」を備えており、2019年6月時点と比べてその割合はさらに高まっている。また、『メンバーシップ+ドロップイン』の施設でも、2019年6月と比べて東京23区、その他の地域で「個室部屋」の割合が高くなっている。『メンバーシップのみ』、『メンバーシップ+ドロップイン』の施設では、サービスオフィス、レンタルオフィスとしての「個室部屋」や、リモート会議用スペースなどの需要の高まりから共同利用としての「個室部屋」の設置が増えていることが想定される。

 一方、『ドロップインのみ』の施設でも、大阪市を筆頭に「個室部屋」の割合が増えつつある。一時利用においても、仕事に集中したりリモート会議にも使えるような「個室部屋」対応の施設が増えつつあることが想定される。


出典:コワーキング.com(それぞれ2019年6月8日、2021年12月28日閲覧時点)に基づきデータ作成