「大都市政策の系譜」第7回「ジェイン・ジェイコブスの「アメリカ大都市の死と生」」

第7回「ジェイン・ジェイコブスの「アメリカ大都市の死と生」」

一般社団法人大都市政策研究機構
大都市政策研究班

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 「アメリカ大都市の死と生」(The Death and Life of Great American Cities)は、作家であり市民活動家であるジェイン・ジェイコブス(Jane Jacobs, 1916–2006)が1961年に著した書籍である。ジェイコブスは本書で、ハワードやコルビジュエの流れをくむ近代的都市計画を痛烈に批判し、1950年代のアメリカ諸都市におけるスクラップ・アンド・ビルド型再開発は都市の衰退の要因となったと指摘した。そして、大都市に住む人々の社会的な行動や経済活動への観察を通じて、都市の安全や暮らしやすさ、活発な経済活動は、多様なコミュニティによるネットワークのもとに築かれていると分析し、都市の多様性を作り出すための「4つの条件」を提唱した(本書は、全4部・22章構成の大著であるが、本稿では第1部、第2部を中心に紹介する)。

「正統派都市計画理論」への批判

 ジェイコブスは、この著書の冒頭で高らかに述べる。「この本は、現在の都市計画と再開発に対する攻撃」であり、「新しい原理を導入する試み」である。

 彼女は、ボストン市のイーストエンドに訪れ、安全で親しみやすく活気ある街並みだとの自身の印象に対して、エリート都市計画家や銀行家たちは「ひどいスラム街」と嘆き、再開発が必要と決めつける。この彼らの「迷信」に根差すものは「正統派都市計画理論」(orthodox city planning theory)にあると指摘する。

 その始まりとするハワードの田園都市論については、大都市の多面的な文化的生活や経済機能を無視し、自給自足型の小さな田舎のまちに移住させようとする「権威主義的ではないにしても、父権主義的な行為」と評する。ハワードの影響を受けたルイス・マンフォード、クラレンス・スタイン、ヘンリー・ライトらの地域計画家(あるいは、大都市から郊外住宅地に人々を分散させる「分散主義者ら(Decentrists)」)も、大都市の失敗例だけに注目し、大都市を理解し育てるために有益なものを何一つ提供していないと断じる。ジェイコブスの不満は、これらの分散主義者らの思想が、都市計画手法の学術的・政治的コンセンサスとなり、ゾーニングや住宅ローン制度など連邦や州政府の法律・ガイドラインに刻み込まれたことにある。

 「これは、この惨めな物語の中の最も驚くべき出来事である。大都市を強化したいと心から願っていた人々が、ついに、大都市を経済的に弱体化させ、消滅させるためにあからさまに考案された処方箋を採用してしまったということだから」。

「アメリカ大都市の死と生」 目次
1 Introduction
 Part One THE PECULIAR NATURE OF CITIES
2 The uses of sidewalks: safety
3 The uses of sidewalks: contact
4 The uses of sidewalks: assimilating children
5 The uses of neighborhood parks
6 The uses of city neighborhoods
 Part TWO THE CONDITIONS FOR CITY DIVERSITY
7 The generators of diversity
8 The need for primary mixed uses
9 The need for small blocks
10 The need for aged buildings
11 The need for concentration
12 Some myths about diversity
 Part Three FORCES OF DECLINE AND REGENERATION
13 The self-destruction of diversity
14 The curse of border vacuums
15 Unslumming and slumming
16 Gradual money and cataclysmic money
 Part Four DIFFERENT TACTICS
17 Subsidizing dwellings
18 Erosion of cities or attrition of automobiles
19 Visual order: its limitations and possibilities
20 Salvaging projects
21 Governing and planning districts
22 The kind of problem a city is

 ル・コルビジュエの「輝ける都市」に対する評価も手厳しい。田園都市の主要概念であるスーパーブロックで囲まれた近隣計画と緑地帯を高密度でも可能なように積み上げられた「垂直の田園都市」――すなわち、「薄っぺらな田園都市の原則を、薄っぺらにも高密都市で実現可能」にして、高速の大幹線道路計画をも組み込んだ彼の「すばらしい機械式の玩具」は、そのわかりやすさと大胆なシンボリズムによって計画家、住宅建設屋、デザイナー、デベロッパー、市長らに魅力的なものに映り、いやおうなく受け入れられたと非難する。「どんなに下品で不器用なデザインでも、どんなに陰気で役に立たないオープンスペースでも、どんなに近づいてみた景色が退屈でも、ル・コルビュジエの模倣は叫ぶのである。『さあ、私が作った建物を見てごらんなさい!』と」。

 そして現在、上品ぶった都市デザイナーたちのほぼすべては、この2つの概念を順列組み合わせ式にさまざま結合させているのだ、と皮肉るのである。