「大都市政策の系譜」第8回「メガロポリス・エキュメノポリス・世界都市」(3)

世界都市(ワールド・シティ、グローバル・シティ)

 加茂(2005)によると、多国籍企業とグローバル・マネーの形成が本格化した1970年代、国際的な企業・法人本部とそれを支える活動のコンプレックス(複合体)を擁する都市を「世界都市」(World City)と定義し、こうした都市の育成をはかる議論がはじまった、とする。

 ニューヨークの都市再生の可能性を検討するため、コロンビア大学の研究グループが行った調査研究において、ニューヨークの集積力は、製造業や卸売業では衰退しているものの、国際的な活動をしている法人本社部門とその活動を支える金融、保険、通信、証券、不動産、法務、会計、広告、コンサルティングなどの高次法人サービス、それにレストラン、出版・印刷、専門店、ファッション、ホテル、観光、教育、芸術などの補助サービスなどの集積はむしろ強まっており、このニューヨークの経済的地位を「世界都市」という言葉で表現した。

 「世界都市」の概念は、「グローバル経済の司令部」としての機能を基準に定義され、多国籍企業時代における国際管理中枢機能複合体の集積の強化を都市再生戦略の基軸とする政策がニューヨーク市によって先鞭をつけられる。やがてロンドンや東京の都市政策に伝播して「世界都市・東京」、「ロンドン世界都市」政策を生み出し、1980年代には「三大世界都市」の構図が描かれるようになった。

 カリフォルニア大学教授のジョン・フリードマン(John Friedmann, 1926-2017)は、『世界都市仮説』(The World City Hypothesis, 1986)において、世界都市の定義を多国籍企業体本社の集積から次のように説明する。

① 資本主義の世界システムの中で、法人の拠点、金融センター、グローバル・システムや地域・国民経済の結節点として、その機能を果たす都市

② 多国籍企業がその基地として立地し利用するため、複雑な国際的・空間的ハイラーキー(階統秩序)の中に位置づけられる都市

③ グローバルな管理機能の集積を反映して、法人の中枢部門、国際的な金融・輸送・通信・広告・保険・法務などの高次ビジネス・サービスなどが成長する都市


 一方、コロンビア大学教授のサスキア・サッセン(Saskia Sassen, 1947- )は、その著書『グローバル・シティ-ニューヨーク・ロンドン・東京』(The Global City: New York, London, Tokyo , 1991)において、「グローバル・シティ」という表現を用いて、国際金融センターあるいは高次サービス機能を中心に世界都市を理解しようとした(その後、1990年代の情勢を受けて2001年に第2版が刊行されている)。

 サッセンは、「経済活動の地理的な分散とグローバルな統合が同時に起きた結果、大都市は新しい戦略的な役割を担うようになった」とし、これまでの国際貿易・銀行業の中心としての役割に加え、①世界経済を組み立てるうえでの司令塔が密集する場、②製造業にかわって経済の中心となった金融セクターと専門サービス・セクターにとっての重要な場、③金融や専門サービスという主導産業における生産(イノベーションの創造も含む)の場、④生み出された製品とイノベーションが売買される市場、という4つの機能が備わった新しいタイプの都市を「グローバル・シティ」(Global City)と定義し、その代表例として、ニューヨーク・ロンドン・東京・フランクフルト・パリを挙げた。

 著書では、ニューヨーク・ロンドン・東京に注目して、分散と統合の二重性に基づく経済成長がグローバル・シティの経済秩序に与える影響、経済活動の国際化が都市システムに与える影響、国民国家とグローバル・シティの関係について分析するとともに、これらグローバル・シティにおいて経済的な二極化(高賃金労働と低賃金労働の二極化)が進行していることも指摘している。

 グローバリゼーションという時代が創り出した資本主義空間を意味する「グローバル・シティ」の概念は、現在とくに都市論で多く用いられるようになっている。

The Global City: New York, London, Tokyo
(Princeton University Press, 1991)

(一般社団法人大都市政策研究機構 主任研究員 三宅 博史)


<参考文献>

 J.ゴットマン著, 木内信蔵, 石水照雄共訳『メガロポリス (SD選書)』 鹿島出版会, 1967年
 谷岡武雄「メガロポリスの提唱者、ジャン・ゴットマンの生涯と業績」 『立命館地理学』 第20号, 2008年
 C. A. ドクシアディス著 磯村英一訳『新しい都市の未来像-エキスティックスー』 鹿島出版会, 1965年
 Constantinos A, Doxiadis, “ECUMENOPOLIS: Tomorrow’s City”, BRITANICA Book of the year 1968, Encyclopedia Britannica, Inc.
 「人間環境を考える–C.A.ドクシアディス追悼号<特集>」 『SD : Space design: スペースデザイン』 No.143, 1976年7月号
 加茂利男『世界都市-「都市再生」の時代の中で』 有斐閣, 2005年
 サスキア・サッセン著, 伊豫谷登士翁監訳, 大井由紀, 高橋華生子訳 『グローバル・シティ : ニューヨーク・ロンドン・東京から世界を読む』 筑摩書房, 2008年